■ 糸の端
はい、もしもし?
ああ、Jくんか! 久しぶりだね。元気かい?
私はいつもどおりさ。
え? 血圧? ……君も嫌なことを覚えているなあ。
はははっ、冗談だよ。心配してくれたんだね。ありがとう。
うんうん、わかっているよ。で、血圧だったね。ちゃんと毎日測っているよ。良好だから、心配しないでくれ。
わかっているよ。大丈夫。相変わらず、心配性だね。
ああ、返す言葉がないじゃないか。まったく、手厳しい。
はははっ!
ん? ああ、そういえば、そんな時期だったね。
うん。ありがとう。
え? そうなのかい? 悪いね、毎年気を遣わせてしまって。
そうかい?
まあ、私ももちろん嬉しいからね。ありがたく思ってるよ。
うん。まだだな。
そうだね。到着を楽しみにしているよ。
ああ。と、そういう君はどうなんだい?
おチビさんたちも、そろそろそういうのがわかる年ごろだろう?
そうか。よかったじゃないか。格別のおいしさだろう?
……味そのものより、その心遣いを買ってあげたまえ。わかっているんだろう?
いや、わかるから構わないよ。私も、君の煎れてくれるコーヒーが好きだったしね。
いやいや、そんなことは言っていないだろう? 君は何をやらせてもそつなくこなしてくれたしね。もちろん、実際にとてもおいしかったよ。
ん? どうかしたのかい?
ああ、もちろん。
はい、おはよう。
どうしたんだい?
……そうか。それは素敵な考えだね。
うーん、そうだな。今日はたしか、『お父さん』はお休みの日だったね? 天気はどうだい?
じゃあ、時間を見つけて庭の手入れをしているだろう?
花を植えたり、草むしりをしたり、だよ。
うん。それをお手伝いしてごらん。
喜ぶよ。それで、たくさん話ができたらもっと喜んでくれるよ。
そうだね。応援しているよ。
私が君たちの『お父さん』の『お養父さん』だからね。たくさん知っているよ。
ああ、そうだね。
!?
あ、ああ。すまないね。ちょっとびっくりしたんだ。でも、うん。ありがとう。
はい。じゃあ、替わってもらっていいかな?
ああ、また今度。
いやいや。微笑ましいね。
成長している証拠だよ。いいことじゃないか。
そうかい? それは嬉しいね。
うん。じゃあ、また。
わかっているよ。君も、あまり無理はしないように。
ありがとう。おチビさんたちと、奥さんによろしくね。
ああ、伝えておくよ。
またね。
fin.
繋がり続ける確かな糸。
いつまでもどこまでも、途切れることのないそれは、血の繋がりよりも確かな糸。
その関係性は、恋人だけの特権ではないと思うのだ。
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